32話
「まず感染呪術ですが、これはあまり信憑性がありません。爪や髪の毛を使って相手を殺す事が可能なら完全犯罪が横行してしまいますし、警察はオマンマ食い上げです。法律で呪術を裁く事はできませんし、百歩譲ってそんな法が出来た所で物的証拠がありません」
昇はそれを聞くと頭の後ろで両手を組み、椅子に体重をかける。『まあ、普通の考え方だな』と思う。無論それは正解で、呪術を掛ける際に必要になってくるのは、
「ですが、サブカルチャークラブ部長の私としては呪術が存在しないと、呪術を何も知らない輩に言われるのは酷く癪に触ります。ですからあえてこんな提言をしましょう。古来より髪には力が宿ると言われていますが、精々伝承に残されている程度でそんな証拠はどこにもありません。我々の概念からすれば髪や爪等の末端細胞は本人との関わりは非常に薄いと考えるのが常識かと思います。つまり、関わりが薄いために呪いを掛ける事が出来ないのだと私は解釈したのですよ」
…………
ぎい、と昇が座る椅子が貧相な音をたてる。
「じゃあ、何なら出来るんだよ」
字久を嫌っていても、彼の尽きる事の無い知識と、それから弾き出される論は司影も一目置いている。長すぎなければ、あるいは興味のそそる内容であれば、彼女もある程度は話を聞こうとする。
「そうですね。骨や血、肉片ではどうでしょうか。あるいは肌身離さずその人が一生涯に渡って身に付けている物など。要するに関わりが非常に濃いものならばあるいは呪いも成立しうるのではないかと私は考えました。あとこれは感染呪術と関連はありませんが呪い独特の暗示があげられます。未開の地で行われる呪術というものは呪術師は必ず呪いをかける相手にその事実が伝わるようにするそうです。呪いを掛けられる相手は当然不安になってしまいます。何しろ相手は呪術師。一体何が自分の身に起こるのだろうと。それが心理的な負担になり遂には『呪いで自分は死ぬのでは』と考えるようになってしまいます。一種のプラシーボ効果です。呪いというものが存在しなくとも思い込みで死んでしまうという訳です」