53話
憮然とした口調でそう言うと、司影は踵を返して人込みの中に突っ込んでいく。
「おい! ……あの馬鹿!」
転校生の腕をむんずとつかんで学生服は走り出す。
おおぉぉ、と奇妙な歓声が学食前であがる。
昇は苦々しげに舌打ちすると、
「クソ……メンドくせえなぁ、あいつと一緒にいると!」
罵声を残すと学食にではなく、司影達が走り去っていった方角でもなく、全く別の方角に向かって駆け出した。
「……はあ、はあ」
「…………」
人がいない所に行こうと走り続けると、二人はもみじが植樹された庭に出てしまった。落ち葉と言うにはまだ早過ぎる新緑を踏み締め、木陰で司影は息を整えている。
対する名も知らぬ少女は汗一つかいていない。それこそ無生物のように、疲れという概念が全く無さそうな表情で。
司影は両膝に手を当てながら滴り落ちてくる汗を手の甲で拭い、
「……あ、えーと」
「…………」
転校生は何も言わずに依然、冷めた眼で息を整える司影を見下ろしている。
「そ、その、大丈夫だったか?」
彼女は訝しげに、ほんの僅かだが眉を動かした。
「い、いや。あんなふうに見せ物みたいに見られるのって嫌だよな」