55話
そこに、
「腹、減ってねえかい、御両人?」
木の後ろから聞こえてきた面倒そうな声に向かって、二人が顔を向ける。様々な種類のパンが詰められたビニール袋。木の陰から腕だけを出し、白い手袋をした左手がそれを掲げている。
次いで顔を見せた昇は、自腹を切ってパンを買ってきたせいか、何ともやりきれない表情で二人を見つめていた。
昼時の陽光はポカポカと穏やかな空気を演出している。空には海を思わせる水色。涼やかな春風も申し分ない。雑踏も、鬱陶しい会話も、生徒の興味本意の視線もない。見知らぬ者と会話をするには絶好の環境……の、はずなのだ……
「なんで、黙ってパン食ってんだよ」
「……はぁぁぁあ」
「…………」
「……何か喋ろよ、おい」
光と緑の影が照らし出す中、パンを食すのは自己嫌悪に陥る学生服、状況の把握が出来ず言葉を発さない転校生、『メンドくせえ』が口癖のサボリ魔。会話が展開されるはずがない。
くしゃくしゃと手袋をした左手で自分の髪を掻き、
「あぁぁぁあ、もう! 自己紹介しろ、自己紹介! こんなダークな雰囲気で飯が食えるか! おら、司影! お前からだ!」
司影に向かって右手で指差し、怒鳴りつける昇。
司影は眼を瞬かせ後に、
「え、えと、楠木司影、二年生、クラスは三組。よ、よろしく」
「端山昇、二年六組。この馬鹿と一緒のサブカルチャークラブ所属。趣味は、音楽鑑賞、読書、それから」