三日月の絆その2

メニュー| 32話 | 33話 | 34話 | 35話 | 36話 | 37話 | 38話 | 39話 | 40話 | 41話 | 42話 | 43話 | 44話 | 45話 | 46話 | 回想参 | 47話 | 48話 | 49話 | 50話 | 51話 | 52話 | 53話 | 54話 | 55話 | 56話 | 57話 | 58話 | 59話 |

55話

55話

そこに、

「腹、減ってねえかい、御両人?」

木の後ろから聞こえてきた面倒そうな声に向かって、二人が顔を向ける。様々な種類のパンが詰められたビニール袋。木の陰から腕だけを出し、白い手袋をした左手がそれを掲げている。

次いで顔を見せた昇は、自腹を切ってパンを買ってきたせいか、何ともやりきれない表情で二人を見つめていた。

昼時の陽光はポカポカと穏やかな空気を演出している。空には海を思わせる水色。涼やかな春風も申し分ない。雑踏も、鬱陶しい会話も、生徒の興味本意の視線もない。見知らぬ者と会話をするには絶好の環境……の、はずなのだ……

「なんで、黙ってパン食ってんだよ」

「……はぁぁぁあ」

「…………」

「……何か喋ろよ、おい」

光と緑の影が照らし出す中、パンを食すのは自己嫌悪に陥る学生服、状況の把握が出来ず言葉を発さない転校生、『メンドくせえ』が口癖のサボリ魔。会話が展開されるはずがない。

くしゃくしゃと手袋をした左手で自分の髪を掻き、

「あぁぁぁあ、もう! 自己紹介しろ、自己紹介! こんなダークな雰囲気で飯が食えるか! おら、司影! お前からだ!」

司影に向かって右手で指差し、怒鳴りつける昇。

司影は眼を瞬かせ後に、

「え、えと、楠木司影、二年生、クラスは三組。よ、よろしく」

「端山昇、二年六組。この馬鹿と一緒のサブカルチャークラブ所属。趣味は、音楽鑑賞、読書、それから」