56話
「……おい、このバカッて誰だよ」
何気ない一言にカチンときたのか、ムッとしたように昇の紹介を遮って迫る。それに対し、昇はいつになく挑発的に笑う。
「女なのに学生服着てくる奴以外誰がいる? 先公に逆らって学生服着続けている頑固馬鹿以外によ」
「……オマエ、オレに喧嘩売ってるだろ? いくらだ? 今なら借金してでも買うから、是非売ってくれ。つうか売れ」
こめかみを引き攣らせながら黒い袖を捲る司影。不敵な表情でそれを見返す昇。
(どんよりしてるより、こっちの方がよほどしっくりくるぜ)
そんな事を昇が考えていると、司影はズボンについた土を荒々しく手で払い、立ち上がろうとする。
対する昇も口の端を吊り上げ、腰を浮かし、
「……暮崎・リール・玲於奈。三年九組。よろしく」
ほとんど表情を動かさず、返答としてはかなりタイミング的に遅れていたのだが、座ったまま彼女はそう言った。両者はキョトンとした顔付きで『れおな』と名乗った彼女を見つめ、立ち上がりかけた姿勢のまま固まっている。
ほんの少しだけ、整った形の唇が吊り上がって笑みらしきものを象っていた事に、二人は全然気付いていなかった。