57話
「へえぇぇえ。じゃあレオナ、ヨーロッパにいたんだ。具体的にはどこに居たんだ?」
「ミュンヘン。それから……ルーマニアの……ブカレストに、チューリヒ……」
「よくそれで日本語出来ますね、先輩」
呆れ気味に昇が敬語で感想を述べる。もっとも司影は普段通りの口調の上に呼び捨て。年齢の垣根を全く感じさせない話し方は、好意的に捉えるならアットホームと言っても良いだろう。
(否定的に見りゃ、無礼、とも言えるだろうがな)
それは血を見そうな発言なので、口に出さない。いや、出せない。
「他には? 他にはどこに行ってどんなことしたんだ?」
眼を輝かせ、司影は己の好奇心を隠しもせずにオールストレート三球勝負で聞く。その勢いに玲於奈の目尻がやや下がり、口元が微かに動く。苦笑、したのだろうか? あるいは微笑、したのか? 正直、昇には彼女の表情を読むことは出来そうにない。
キーン、コーン、カーン、コーン。
授業開始の予鈴だ。
「ヤベ。オレ、次体育なんだ!」
パンが入っていたビニール袋にゴミを詰め込み、
「……俺に片付けろ、って言うのか?」
「レオナ、また明日話聞かせてよ、じゃ!」
昇にビニール袋を問答無用で押し付けると、元気良く司影は右手を振って走り去っていく。
「こけんなよー」
昇のおちょくりに、『うるさい!』という嬉しそうな声が返ってくる。