37話
嘘を言ってはいないが、昇はある事柄を意図的に隠していた。
魔術、もしくは呪術同士がぶつかり合えば、それは『魔力』をどれだけ『精神集中』によって引き出せるかが勝敗を決する要因なのだが、稀にそれらの要因を無視してしまうものが存在する。
その一つが、自身の左手に印された『魔封じの刻印』。
『魔術方程式』を根底からバラバラにしてしまう回路。魔術師の間では概念化した伝説上の存在。故に『概念の具現』と呼ばれる。
もっともバラバラにしても、方程式に込められた魔力自体が消滅する訳ではなく、自身の体にフィードバックしてくる。しかも『刻印』のせいで自身の力のみで体外へ魔力を放出する事も出来ない。
自らの能力を高めるのに肉体を循環させる補助的な魔術は数少ない例外だが、それでも、正直に言ってデメリットの方が大きい、と昇は感じる。
あとは、神話や伝承で出てくる魔力武器が……
(何だ、この魔力の高まりは?)
「おい、待てってば! 聞いてんのか?」
その方角から追いかけてきた司影には構わず、彼女とは擦れ違いになる。昇は力を感知した方角に走り、角の向こう側を見睨み付け急停止。スニーカーがキュッ、と悲鳴をあげるように甲高い音を発した。
誰もいない。魔力も今は感知できない。
何だったんだ今のは? まるで近くにいる魔術師を炙り出すかのような、挑発的なこの行動は。
「おい、だからオレの話を……」
「ここに誰がいた?」
有無を言わせぬ迫力で問う昇に、司影は後退りながら答える。
「い、いや、結構まばらに人がいたぞ、四、五人」